建築の歴史を学びなおす

ライブラリー

~関宿まちなみ研究所 Book Library~

 私が建築の歴史を勉強したのは大学(工学部建築学科)の学生だった頃です。当時(もう30年以上前になりますが)、建築が学べる大学は工学系、美術・芸術系、家政系に大きく分かれていました。一般的な感覚としては工学系は技術的なベースに、美術・芸術系は表現力に、家政系は住居における住まい方に、夫々特色を持たせたカリキュラムが組まれていました。ただ、最終的にはそれらが総合されてひとつの建築物になるわけです。

 工学部で建築を学んだ者はいわゆる“理系”人間が多く、工学部の中では建築学科にしかなかった“建築史”の授業に面くらったりもしたもんです。必修科目で建築士資格取得のための試験にも問題が出されることになっていたので、仕方なく勉強するというのが学生の一般的なスタンスだったように思います。

 私が少し“建築史”をまじめに勉強するようになったのは、大学4年になり“建築史”の研究室に進んでからでした。古い建物が好きだったということもあるのですが、古い建物に実際に触れ、図面を作成する調査が面白そうだったというのがその理由でした。 

 “建築史”の厄介なところは、人の歴史と同じだけの長さがあり、住居、宗教施設、公共施設など様々な建築分類があり、西洋、東洋、日本と地域によってもそれぞれ異なること等。簡単に言えばその幅の広さにありました。そして、それぞれの代表的な、名建築を覚え、実際に見なければ本当には理解できないということだったでしょうか。

 いつしか私の関心は、日本の、それもいつも身近にある住居に収れんしていった訳で、今の古民家暮らしの出発点と言えるのかもしれません。

日本建築の通史編

 建築の歴史を学びなおすとすれば、まずは日本建築の“通史”を学びなおすのがまず第一歩になるのではないでしょうか。そこで、日本の建築がどのように変化していったのかを通史的に理解するうえで重要と思われる本を紹介します。

 ここで紹介しているのは、あくまでも当研究所のライブラリーです。重要な書籍が抜けていたとしても、そこは私の浅学菲才ゆえのこと。ご了承ください。

 さて、こうして私が学生時代の教科書として使用した本から、その後五月雨式に集めた本を並べてみると、基本的な書籍は版を重ね現在でもしっかり使われていることがわかります。しかし、歴史分野とはいえ研究は日々進んでいます。版を重ねれば、その都度新しい研究成果が反映されていっており、古い知識を後生大事にしているような不勉強ではいけないと反省するばかりです。

 一方で、新しい本もいくつか出されています。これらは一般の方々でも読みやすい内容になっており、“建築史”が専門家だけのものではなく一般の方々からの関心も寄せられるようになっているんだと感じるところです。

 では、日本建築の歴史の学びなおしを始めることにします。


<ライブラリー>

『日本建築史序説』
太田博太郎/1960/彰国社
(最新版:『日本建築史序説 増補第三版』太田博太郎/2009/彰国社)

『日本建築史圖集』
日本建築学会編/昭和24年
(最新版:『日本建築史図集 新訂第三版』/日本建築学会編/2011/彰国社)

※学生時代にはこの2冊が教科書として使われました。『増補第三版』が最新版。日本建築史圖集』は新訂版を持っていますが、今でも写真や図面を見ることがあります。後半にある「図版解説」は参考になります。これから手に入れるなら、2011年に改訂された『新訂第三版』が最新版。

『日本建築学大系 4-1 日本建築史』
建築学体系編集委員会/昭和32年/彰国社
(最新版:『新建築学大系 2 日本建築史』新建築学体系編集委員会/1999/彰国社)

※大系の名がつく通り、建築を大系的にまとめた全40巻のうちの一冊。日本建築史が「4-1」で、「4-2」は東洋建築史、「5」が西洋建築史、「6」が近代建築史。このような巻分けなので、『4-2 日本建築史』で記述されている時代区分は古代から近世まで。最新版の『新建築学大系』では執筆者が大きく変わり、新しい研究成果が組み込まれている。

『講座 日本技術の社会史 第七巻 建築』
玉井哲雄他/1983/日本評論社

※建築の生産技術が古代から近代までの各時代ごとに述べられています。通史として扱うことには異論もあるかもしれませんが、ここで取り上げることにしました。この本のもう一つの特徴は「社会史」と銘打たれ、建築と社会との関わりに強い関心が寄せられている点です。「建築史は建築を主な研究対象とする歴史学の一分野」との主張にも強く共感します。

『建築の歴史』
藤井恵介・玉井哲雄/1995/中央公論社

※この本も少し変わり種かもしれません。1989年から93年にかけて出版された『マンガ日本の歴史』(石ノ森章太郎著)の巻末に掲載されていた解説「建築の歴史」を一冊にまとめた本です。著者のお二人はマンガの中で背景として描かれた建物の時代考証も担当されていたようなので(「はじめに」参照)、『マンガ日本の歴史』と合わせてみていただくのがいいかもしれません。

『建築学の基礎6 日本建築史』
後藤治/2003/共立出版株式会社

※おそらく現在最もよく使われている教科書なのではないでしょうか。「歴史的建造物の保存」が通史の中に取り入れられた点に私は注目しています。巻末の参考文献リストが参考になります。

『建物が語る日本の歴史』
海野聡/2018/吉川弘文館

※「社会史」を前面に出して、建築と社会との関係に強い関心が寄せられいて、とても面白く読むことができました。巻頭カラー写真の美しさと、10の「よもやま話」もおすすめです。


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『日本建築史序説 増補第三版』
太田博太郎/2009/彰国社

『日本建築史図集 新訂第三版』
日本建築学会編/2011/彰国社

『新建築学大系 2 日本建築史』
新建築学体系編集委員会/1999/彰国社

『講座 日本技術の社会史 第七巻 建築』
玉井哲雄他/1983/日本評論社

『建築の歴史』
藤井恵介・玉井哲雄/1995/中央公論社

『マンガ日本の歴史』
石ノ森章太郎

『建築学の基礎6 日本建築史』
後藤治/2003/共立出版株式会社

『建物が語る日本の歴史』
海野聡/2018/吉川弘文館

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