関宿の古い町家の多くにある袖壁です。白壁に大きく屋号を記して看板の役割を果たしています。
袖壁は、関宿の町家の2階両端から突き出た壁で、隣家から火が移ってくるのを防ぐ防火のための設備で“袖うだつ”とも呼ばれ、大きな屋根を持ち出すための支えにもなっています。
関宿では町家は正面の柱の位置を揃えて並んでいます。このため、建物から通りに向かって突き出た袖壁は、街道を歩く人たちへのアピール度が高く、ここに屋号を記して看板として使っているのです。
会津屋は、「関で泊まるなら鶴屋か玉屋、まだも泊まるなら会津屋か。」と唄に歌われたという関宿を代表する旅籠のひとつです。関の名所である関地蔵院(地元では親しみを込めて“地蔵さん”と呼んでいます)の門前にあって、朝目を覚ますとそのまま“地蔵さん”を拝むことができる旅籠として有名だったとか。2階の軒が周りよりひときわ高いのも、袖壁の屋号を頼りに会津屋を目指してやってきた多くの旅人を泊めてきたためなのでしょう。
さて、この袖壁を使った看板。“漢字”と“ひらがな”で書き分けられていますよね。これには逸話があって、江戸から来た人は“ひらがな”を、京から来た人は“漢字”を見るように書かれているらしいのです。
関宿の街道筋は一本道。朝旅籠を出て最初に向かう方向を間違えてしまうと、どこまで進んでも決して目的地には近づきません。まず最初に確認すべきは袖壁の文字というところでしょうか。
本当の話なのかどうか、そして、信じるか信じないかはあなた次第。ですが、旅人をもてなしてきた宿場町“関宿”らしいお話です。“漢字”と“ひらがな”を探しながら、関宿を歩いてみてください。
※この場所に行き、実際に見るためのヒント
●関宿の中心部。地蔵院の前にあります。
●屋号を記す袖壁も多くはないのですが、ふと街路灯を見ると、町の名前が“漢字”と“ひらがな”で、見る向きによって書き分けられています。
<参考にさせていただいた本など>
『関宿 伝統的建造物群保存地区調査報告』昭和56年/三重県鈴鹿郡関町
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌 -まちを活かし、まちに生きる-』平成27年/亀山市