関宿のまちなみには、切妻(きりつま)・平入(ひらいり)形式の町家が、隣家と軒を接して隙間なく並んでいます。
「切妻」とは本を開いて伏せたような形の屋根のことで、その屋根が四角く見える側に出入口を設ける形式を「切妻平入」、三角形に見える側に出入口を設ける形式を「切妻妻入(つまいり)」といいます。
切妻平入形式の町家が並ぶことで、出入口のある建物正面だけでなく、重なり合う屋根まで隙間なく並ぶことになります。そして、それぞれの町家の軒先が同じ高さで揃うことでまちなみの連続性が生まれ、整った美しさが保たれることになります。
この切妻平入形式の町家が並ぶまちなみは、全国各地にあり私たちが最も見慣れた景観ということになります。その代表例が京都のまちなみといえるのでしょうが、三重県では松阪・伊勢・上野といった城下町や、東海道などの街道沿いに切妻平入形式の町家が分布しています。
一方、切妻妻入形式の町家が並ぶまちなみは比較的珍しく、三重県内では伊勢市周辺で見かけます。
さて、写真で並んでいる3軒の町家。屋根の高さが奥に行くにしたがって順に高くなっていますが、2階が低い手前の建物は江戸時代に、中くらいの2軒目は明治時代に、もっとも高い奥の建物は昭和初年に建てられたものなのです。
関宿の町家では、新しくなるにしたがって、2階の高さが高くなっていきます。生活が充実するにしたがって、1階だけであった居室が、物置程度にしか使用していなかった2階へと広がっていき、これに従って屋根も高くなっていくのです。
もちろん、宿場当時に旅籠を営んでいた町家では、すでに2階が旅人の宿泊などに使う部屋として発展しているものもありますが、2階の天井は頭がつかえるほどの高さしかないのが一般的です(これを“つし二階”と呼びます)。
一般に切妻平入のまちなみでは、どこまでも同じ建物が並んでいるように見え、面白みに欠けると感じられる方も多いかもしれません。しかし、屋根の高さのちょっとした変化により、まちなみに心地よい変化が付け加えられるとともに、人々の暮らしの変遷を読み取ることができるのです。
※この場所に行き、実際に見るためのヒント
●関宿の中心部。中町北側。
●西から東に向かっていると、屋根の並びに気付き難いかもしれません。
●逆に、東から西に向かっていると、馴染みすぎていて変化に気付かないかもしれません。
<参考にさせていただいた本など>
『鈴鹿関町史 上巻』昭和52年/関町教育委員会
『関宿 伝統的建造物群保存地区調査報告』昭和56年/三重県鈴鹿郡関町
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌 -まちを活かし、まちに生きる-』平成27年/亀山市
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌(別冊) 関宿伝統的建造物の前面意匠』平成27年/亀山市