典型的でありながら個性的 “関まちなみ資料館”

(3)特色のある町家と細部意匠

目 次
<まちなみ案内>
「関宿の典型的な町家 “関まちなみ資料館”」
<深読みコラム>
「典型的でありながら個性的 “旧別所家住宅”

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<まちなみ案内>

関宿の典型的な町家 “関まちなみ資料館”

 「関まちなみ資料館」は、関宿の典型的な町家の内部を公開する資料館です。関宿旅籠玉屋歴史資料館と合わせて有料で公開されています。

 「関町並み資料館」の建物は、江戸時代の後期、文政8年(1823)3月にあった大火「真弓火事」で類焼後再建された建物です。仕舞屋(しもたや)とされ商売は行っていなかったようです。

 正面は二階の低い厨子二階建てで、二階前面には小さな虫籠窓が付けられています。一階前面は座敷前が引戸式の格子戸で、西側に戸袋が付けられています。ミセの前は現在は格子戸がはめられていますが、その内側には本来の建具「蔀戸(しとみど)」が残っています。折り畳み式の縁台「ばったり」や、「関まちなみ資料館」と彫られた吊り下げ看板など、関宿の町家の典型的な外観意匠が残っています。

 それでは、正面左手(東側)にある出入口から屋内に入ることにしましょう。建物の出入口は潜戸(くぐりど)付きの板大戸です。土間は街道から敷地裏までまっすぐに伸びる「通り土間」で、通り土間の奥側は「かまど」や「井戸」のあるカッテになっています。カッテの上部は吹き抜けの煙出しです。

 居室は通り土間に沿って2列に5室が並んでいます。居室はどれも天井が低く、背の高い人であれば頭をぶつけてしまいそうです。表二階へは座敷前面の部屋から「箱階段(はこかいだん)」で上がるようになっています。畳が敷かれた座敷になっているものの、天井は屋根の勾配にあわせて斜めに張られるほど低くなっています。

 「関まちなみ資料館」の主屋には、関宿の町家の特徴がワンセットで残されており、宿場当時の町家の暮らしを知ることができます。

関まちなみ資料館 歩いていると気づかないことも。

※下に<深読みコラム>が続いています。

<この場所に行き、実際に見るためのヒント>

●関宿の中心部。中町四番町南側。
●気が付かずに通り過ぎてしまう人がいるくらい、まちなみに溶け込んでいます。
●くどい説明はありません。当ブログを見ながらの見学がおすすめです。
●管理人の女性にお願いすれば、蔀戸の開け閉めは実演してくれるかもしれません。
●超レアなマンホールカードの配布場所です。

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<深読みコラム>

典型的でありながら個性的 “旧別所家住宅”

はじめに

 関宿に来られたお客様に「関まちなみ資料館」をご案内する時、「関宿の典型的な町家です。」と紹介するのが一番わかりやすい説明です。確かに、関宿の町家に特徴的な要素がコンパクトにまとまっているのですが、ひとつひとつの要素を細かく見ていくと、この建物がとても個性的に感じられてきます。

 そこで、今回の「深読みコラム」では、「関まちなみ資料館」としてではなく、本来の名前“旧別所家住宅”として、その個性的な部分に焦点を当てて紹介したいと思います。

建築当初からの正面建具が残る

 旧別所家住宅の特徴の一つに、江戸時代末の建築当初からの前面建具が今でも残っていることが挙げられます。座敷前の引戸形式の格子戸と、ミセ前の「蔀戸(しとみど)」です。

 関宿の町家は修復等により前面が格子戸として整えられることが多いため、この建物の前面に格子戸があることにも全く違和感は感じません。しかし、江戸時代には関宿の町家の前面建具は“摺り上げ戸”が一般的でしたから、江戸時代末の建築当初から座敷の前面が格子戸であったことは、当時の関宿では珍しいことだったと考えられます。その上、旧別所家の格子戸は一本溝で西側に戸袋が取り付けられていることも他とは異なる特徴と言えます。

 次に、ミセの前に付けられた蔀戸です。蔀戸は上下2枚に分かれた板戸で、上の一枚は上部が鴨居に金具などでつながれていて、そこを支点に吊り上げる形式の建具です。下の戸は、柱の間にはまっているのですが、上の戸を上げると取り外すことができるようになっています。古くは平安時代頃から使われており、現在でもお寺や神社などで見ることができます。お寺や神社では外に向けて吊り上げるのですが、旧別所家住宅の蔀戸は、屋内側に吊り上げるようになっていることも特徴的と言えます。実は、関宿にある古い町家で蔀戸が残る例は旧別所家住宅だけで、今でも実際に使われている例はありません。

 なぜこうした形式の建具が使われたかははっきりとしませんが、二階の壁を後退させているこの建物の構造的な特性によるのではとの考え方があります。関宿の町家は一階と二階の壁位置が揃うことが一般的で、このことにより摺り上げ戸は上部に戸袋を作り付けることができます。逆に、二階の壁が奥側に後退させられていたために摺り上げ戸等を使うことができなかったという訳です。

 しかし、このように決めつけてしまうことは危険で、むしろ関宿の町家には
現在の関宿には実際には残っていない違った形式の前面建具があった可能性を物語っていると考えるべきなのかもしれません。

蔀戸

二枚の大戸

 もう一つの特徴は、通り土間に二枚の大戸が取り付けられていることです。一枚目は、正面左手(東側)の建物出入口にある潜戸付きの板大戸で、もう一枚は、出入口から2間内側に入った部屋境と同じ柱筋に取り付けられた潜戸付きの格子大戸です。

 関宿の他の町家でも、出入口には潜戸付きの板大戸が用いられているのですが、多くは摺り上げ形式で上下2枚の板戸により構成されています。しかし、旧別所家住宅の大戸は、「軸刷(じくずり)」(建具の一方を軸にして扉のように開く)の一枚大戸なのです。これも関宿に現存する物はなく、旧別所家住宅の個性的な部分のひとつと言えます。

 格子大戸は、出入口の板大戸と同じく軸刷の一枚戸なのですが、板の部分が格子状になっています。格子大戸が付けられた位置は、ミセ(来客の受付。玄関にあたる場所)とカッテ(かまどや井戸がある)との境にあたるところです。格子大戸は通風を確保しながら目隠しとしても機能していたはずで 、この場所に格子大戸が設けられたということは、町家の中で公私の領域がしっかりと分けられていたということです。こうした格子大戸は全くないという訳ではありませんが、むしろ引き違いの格子戸にされる例の方が多いのではないでしょうか。

 こうした特徴は、旧別所家住宅が商売などを行わない仕舞屋であったことに起因しているのかもしれません。私的な生活部分を強く守ろうとしているように見えるからです。しかし、これも前面格子戸や蔀戸と同じように、以前は多くあったものがたまたま旧別所家にのみ残っているとも考えられます。

潜戸付きの格子大戸

地域的な共通点と個々の建物の個性

 旧別所家住宅が、細かいところを見ていくと個性的な建物であることはお分かりいただけたかと思います。

 ではなぜ、こうした個性的な町家であるこの町家が、(まちがいではないものの)「関宿の典型的な町家」として紹介されているのでしょうか。このことは、旧別所家住宅が関宿で初めて公有化された町家で、資料館として一般に公開されたという歴史が影響しているのではないかと考えています。

 関宿で初めての町家を公開する資料館である以上、関宿の町家の特徴を分かりやすく説明できるものであることが望ましかったでしょう。逆に、この町家の個性的な部分を説明しようとすれば、この文章のように非常に回りくどい説明をしなければならなくなります。関宿はもとより個々の町家の特徴があまり知られていない段階では、これもやむを得ない事だったのかもしれません。

 しかし、町並み保存事業は30年以上にわたり続けられ、個々の町家の保存が進んできた今、旧別所家住宅をその個性に基づいて説明していくことは可能になってきているのではないでしょうか。

 古いまちなみには、非常によく似た町家が並んでいるため、個々の建物の個性はあまり目立ってきません。しかし、私は古い町並みの美しさは、同じような意匠の町家が整然と並ぶことにあるのではなく、それぞれの町家が地域の伝統や文化を背景とした共通点を持ちながら、一方ではひとつひとつの建物の個性がしっかりと現れ、それらが調和をもって併存していることにあるのではないかと考えています。
 個々の建物の個性を消し去ってしまうような“まちなみ保存”であってはなりません。そういう意味で、旧別所家住宅の取り扱いは、関宿のまちなみ保存の行方を占う試金石なのではないかと思っています。

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<参考にさせていただいた本など>

『鈴鹿関町史 上巻』昭和52年/関町教育委員会
『鈴鹿関町史 下巻』昭和59年/関町教育委員会
『関宿 伝統的建造物群保存地区調査報告』昭和56年/三重県鈴鹿郡関町
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌 -まちを活かし、まちに生きる-』平成27年/亀山市
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌(別冊) 関宿伝統的建造物の前面意匠』平成27年/亀山市

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