目 次
<まちなみ案内編>
「関まちなみ資料館の展示品」
<深読みコラム>
「町家の調度がそのままに」
<まちなみ案内編>
「関まちなみ資料館」の展示品
関まちなみ資料館には、町家で使われていた様々な調度品が、宿場当時も使われていたであろうそのままに展示されています。
大戸口を入ったすぐ右手は資料館の受付ですが、“帳場囲い(ちょうばかこい)”と“帳場机(ちょうばづくえ)”がそのままに使われています。また、すぐそばには“銭箱(ぜにばこ)”が置かれ、鴨居には“提灯箱(ちょうちんばこ)”が取り付けられています。
土間を進んだ奥には“かまど”や井戸があって、ここがかつて炊事などが行われた“かって”であったことがわかります。このまわりには昔の自転車や“ふいご”等も置かれています。これらは、関宿にあった諸職業に関連する品々です。
座敷に上がると、壁際には“薬箪笥(くすりたんす)”や“箱階段(はこかいだん)”が並び、畳の上には“長火鉢(ながひばち)”や“針箱(はりばこ)”が置かれています。
関まちなみ資料館では、かつて関宿の町家で使われていたこれらの調度品を並べることで、宿場当時の町家での暮らしが再現されており、“まちの民俗資料館”と言うことができます。
※調度品個々の説明は、下に続く「深読みコラム」をご覧ください。
<この場所に行き、実際に見るためのヒント>
●関宿の中心部。中町四番町南側。
●気が付かずに通り過ぎてしまう人がいるくらい、まちなみに溶け込んでいます。
●くどい説明はありません。当ブログを見ながらの見学がおすすめです。
<深読みコラム>
町家の調度がそのままに
関まちなみ資料館には、関宿の町家で実際に使われていた様々な調度品が、ついさっきまで誰かが使っていたかのように何気なく置かれています。
どの調度品も少し前までは使われていたものばかりなので、多くの方は自らの体験と照らして懐かしい気持ちになるのではないかと思います。しかし、比較的若い方々の中には「初めて見るものばかりで一体何に使うものなのか見当もつかない」、そんな品々もあるのではないでしょうか。そこで、少しだけ説明を付け加えることにしましょう。
“帳場囲い” “帳場机” “銭箱” “提灯箱”
“帳場(ちょうば)”とは、商店や旅館などで勘定、支払いなどの事務を行う場所です。ホテルで言えばフロントにあたります。帳場に座るのは主人か番頭(ばんとう)と相場が決まっています。
“帳場机(ちょうばつくえ)”は、こうした事務を行うための机で、必要な帳面や筆記用具(硯・墨・筆など)を収納する抽斗(ひきだし)が付けられています。
“帳場囲い(ちょうばがこい)”は、帳場机の三方を囲むように置かれる折り畳み式のたて格子で、“帳場格子(ちょうばこうし)”や“結界(けっかい)”などとも言います。
“銭箱(ぜにばこ)”は銭を入れる木箱で、箱の上部に丸い投入口があり、上部や側面の一部が錠が付いた取り出し口になっています。帳場机の上には銭を数えるのに使った“銭枡(ぜにます)”も置かれていますのでぜひご覧ください。
“提灯箱(ちょうちんばこ)”はその名の通り提灯を収納する箱のことです。提灯は折りたたんで収納されています。提灯箱にはその家の家紋や屋号などが記され、帳場のある部屋の鴨居などにいくつかを並べて掛けています。
これらはいずれも商家には不可欠な調度品で、関まちなみ資料館の受付には商家の帳場が再現されているわけです。
“長火鉢(箱火鉢)” “針箱(はりばこ)”
座敷に上がると“長火鉢(ながひばち)”や“針箱(はりばこ)”が置かれています。
“長火鉢”は、炉や抽斗を木製の箱に仕込んだ横長の火鉢です。時代劇に良く登場します。「暴れん坊将軍」でめ組の頭辰五郎の前にあるのが長火鉢です。
炭に火をつける“火起こし”や、火のついた炭を運ぶための“十能(じゅうのう)”、炭火を扱うための金属製の箸“火箸(ひばし)”、鉄瓶などをのせる“五徳(ごとく)”、灰の表面をならす“灰均し(はいならし)”、炭火を入れる“火消壺(ひけしつぼ)”等がセットとなる小物類です。
“針箱”は裁縫箱。裁縫に便利な台になるとともに、小物を収納できるよう小さな抽斗がいくつか取り付けられています。
これらは仕舞屋(しもたや)らしい道具と言えるかもしれません。
“薬箪笥” “箱階段”
“薬箪笥(くすりたんす)”は、医者や薬屋が薬を整理して入れておくための箪笥で、小さい抽斗が沢山取り付けられています。抽斗に漢方薬の名前が貼られています。
“箱階段(はこかいだん)”は、側面に引き出しなどが付いた箪笥としても使用できる階段のことです。“箱段(はこだん)”とも言います。関まちなみ資料館の箱階段は、表二階に上がるために備え付けられたものですが、帳場の後ろにデンと構えています。
階段は絶対に斜めにかけられるので、その下はあまり有効には使えない場所になることが多いのですが、この無駄になりがちの空間を収納として有効活用する箱階段は、狭い町家ならではの調度と言えます。加えて抽斗には素敵な金具が付き、うるしなどが塗られた表面は美しく、インテリアとしても最高です。
ちょっと無粋な「手を触れないでください」との札を気にしながら、展示品なので当然かと手を触れずに見ていると、管理人さんに「どうぞここから二階に上がってください。」と案内されました。
<えっ。上には載ってもいいの? 手はダメだけど足ならいいの?>と首をかしげていると、「引き出しの中には管理用の用具が入っているんです。」<そうか、今でも現役なんだ。>「戸棚や抽斗があると必ず開ける人がいるんですよ(笑)。」<確かに!! これは資料館あるあるかも。>「これは、戸棚を開けないでくださいって意味なんです。」<絶対そうは取れないけど・・・。>とのこと。
※「 」内は管理人さんの言葉。< >内は私の心の中でのツッコミ。
そうまで言って頂けるのであればと、大切な展示品“箱階段”を踏みしめて、二階に上がらせていただきました。案内されなければ箱階段の前でどうすればいいのか迷うところですが、実に良い体験をさせてもらいました。
音も楽しめる<かもしれない>展示品 “黒電話”
帳場には、最近では全く見かけなくなった“黒電話(くろでんわ)”が置かれていて、どうやら現在でも使われているらしい。
先日テレビを見ていると、大学生くらいまでの年齢の方は黒電話を見たことがないらしく、まず受話器を取ってからダイヤルを回すという仕組みそのものが想像もできない風でした。
関まちなみ資料館の黒電話は現役らしいので、“展示品”とは言えないのかもしれませんが、知らない人が多いとすれば十分展示品としての役割を担っているとも言えそうで、資料館にあるものの中では間違いなく一番最近まで(ひょっとすると、数分前まで)使われていた品ということになるでしょう。
私らの年齢の者には、“ジー”というダイヤルを回す音や、“リンリン”というけたたましい着信音はとても懐かしく感じます。この音だからこそ大事な時にはモーニングコールの役割を十二分に果たしてくれました。今でも携帯電話の着信音として人気があるようです。
着信音を聞いてみたくなったという方は、資料館観覧中に関まちなみ資料館に電話してみるといいですよ。これも展示品の楽しみ方のひとつとですから、“いたずら電話”には当たらないはずで、きっと許してくれます。
ただし、びっくりする管理人さんを見て楽しむなんて悪趣味はいけません。必ず管理人さんに一声かけてから電話してください。そうすれば、びっくりもされませんし、通話料もかかりません。
<参考にさせていただいた本など>
『鈴鹿関町史 上巻』昭和52年/関町教育委員会
『鈴鹿関町史 下巻』昭和59年/関町教育委員会
『関宿 伝統的建造物群保存地区調査報告』昭和56年/三重県鈴鹿郡関町
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌 -まちを活かし、まちに生きる-』平成27年/亀山市
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌(別冊) 関宿伝統的建造物の前面意匠』平成27年/亀山市