古いまちなみで一番恐ろしいもの“大火”(その三)

(1)関宿の歴史

その三
「私に考えられること」

目  次
「古いまちなみで一番恐ろしいもの“大火”」
(その一)「古いまちなみは火には不利なことばかり」
  はじめに
  関宿で語り継がれてきた大火 
  古いまちなみは火事には不利なことばかり
(その二)「防火に関わるまちなみの知恵」
  江戸時代の消火活動
  ひとつひとつの町家での防火対策
  まちなみ全体での防火対策
(その三)「私に考えられること」
  まちなみ保存と防火対策
  私に考えられること

まちなみ保存と防火対策

 これまで、古い建物やまちなみの火事への不利な点ばかりを書いてきました。まちなみ保存では、古い建物の保存だけが行われているわけでは無く、関宿のこれまでの30年余りのまちなみ保存でも防火対策は行われてきました。ここで、関宿でこれまでに行われてきた古いまちなみでの防火対策を見てみることにしましょう。

防火帯として作られた小公園「百六里庭」

 まず、火災が発生した時に必要な消火用の水の確保で、具体的には消火栓や防火水槽の設置があります。
 消火栓はまちなみのほぼすべての場所に放水できるような間隔で設置されています。これら消火栓は上水道と直結しており、上水道の管が埋設されている公道に水の取り出し口が設けられています。しかし、上水道直結ということなので、水量には不安が残ります。もし大火となって数カ所から水を取りださなければならなくなると、水不足や圧力低下が生じるかもしれないからです。
 防火水槽は、あまり容量の大きいものはありませんが小さな空き地や道路の下などに埋められています。ただ、防火水槽から水を取り出すためにはポンプが必要で、一般の人には扱えるものではないかもしれません。

 これら取り出し口の近くには消火用具箱があり、この中に消火ホースや散水ノズル、バルブを回すための棒、カップリング(継手)などが備えられています。カップリング(継手)は、消防隊が使用するホースの口径65㎜から、一般の方でも使用可能な50ミリに変更するためのものです。消防隊が使用する65ミリホースは一般人には扱い難いため、口径を50ミリに落とす必要があるのです。バルブを回す棒は、数十センチ下の地中にあるバルブを回すためのものです。これらの器具が備わっていないと放水をすることはできません。
 最近これら消火用器具の金属製部分の盗難が多発しているようです。消火用具箱にはいつでも使えるようにカギなどが掛けられていませんから、いざという時用具箱を開けてみたら金属製部分がなかったというのでは冗談にもなりません。

 また、消火用具はその扱い方を知らないと役には立ちません。ホースには凸凹がありますから、つなぐ方向を間違えると出水口にホースを差し込むことさえできません。これは筒先も同じことです。

 消火用具箱と言えば金属製の赤い箱を思い浮かべられると思いますが、関宿ではそれらは木製の箱で整えられています。景観への配慮から目立たないように工夫されているのですが、どこに器具が置かれているのかも日頃から把握しておく必要があります。

木製の消火器具収納箱

 やはり日頃の訓練が必要ということになるのです。幸いまちなみには消防団員を経験したお年寄りなどもいらっしゃって使い方を教えてくれますし、先日あった自治会の防災訓練では、器具が置かれている場所の確認や、用具の有無の点検を行いました。

 そして、こうした設備が整えられたうえで、消防体制がどれくらい整っているのかということなのですが、幸い関宿のすぐ近くには消防署があり、地区内にも多くの消防団員が生活しており、各自治会には防災隊も組織されているというところです。
 ただ、ここでも過疎化や高齢化は大きな課題になってきます。そして、特に昼間の時間帯には数少ない若い人たちは仕事に出ています。そんな時に火事が起こったならば、昼間も関宿に居ることが多い年配の方やご婦人を頼りにせざるを得ません。

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私に考えられること

 これまでも様々な防火対策が取られてきているのは上に記したとおりです。しかし、これで十分かと言われると誰も充分だと胸を張れる人はいないでしょう。

 防火については様々な意見や提案があるでしょう。
例えば、
・放水銃やスプリンクラーを完備してはどうか。
・すべての家に火災報知器を設置してはどうか。
・そもそも古い建物は火に弱いのだから、コンクリートの建物に換えてしまっては。もちろん外観は古いものにして・・・。
・空家を取り壊して防火帯を造ってはどうか。
等などです。

 火を出してしまえば、歴史的建造物もまちなみ保存も何もあったものではありませんから、どれも一理ありです。しかし、ことはそう簡単には進みません。設備の充実はお金さえあれば解決できるのかもしれませんが、たとえ国の文化財であってもそうやすやすと資金が用意できるかというと決してそうではありません。そして、様々な設備が整ったからといって、それで大丈夫ということにはなりません。
 そして、伝統的な建物をコンクリートに換えてしまってはまちなみ保存の意味がなくなってしまいます。たとえ空家と言えども、防火帯を造るために伝統的な建造物を取り壊してしまったのでは同じことなのです。

 少し極端な書き方をしてしまったかもしれませんが、この町に生活し、大切なまちなみを後世に継承していくためには、ただ手をこまねいている訳にはいきません。やはり保存と防火とを、生活の一部として両立させていくことが必要なのだと思います。この町に生活している私たちだからこそ、できることがあるはずなのです。

高札場に掲げられている高札の一枚
「火を付る者を知らハ早々申出べし」とある。

 と、偉そうなことをかいてしまったのですが、今私の頭に思い浮かぶことといえば、下の3つくらいしかないのも事実なのですが・・・。

 まずは、何よりも「火を出さないこと」です。これは住民にしかできないことですし、関宿を訪れる来訪者の皆さんにも協力していただかなければなりません。
・各家では火の元をしっかり確認する。
・歩き煙草はしない。
・消火活動の支障となる路上駐車はしない。
・放火や不審火を招かないよう家の周りを整理整頓する。
・古い電気配線や危険な器具を使わない。
等、出火の原因となる事柄を、日々の生活の中から取り除いていくしかありません。

 二つ目は、個々の建造物を火に強くすることです。このことには、まちなみ保存で行われている修理修景事業が着実でかつ有効だと思います。
 長い年月を経て傷んだ個所を補修することは古い建物を丈夫にするだけではなく、火への抵抗力も高めるはずです。関宿の町家にある防火に関わる装置、塗籠の壁や袖壁をしっかりと修理することもその一つです。また、隣家との境にある土壁を補修したり、板壁を新しいものに替えたりすることもあります。
 さらに、家の修復と合わせて電気配線を更新したり、直接火を使う器具を少なくすることも、大きな修理の時だからこそできることです。家庭用の火災報知設備の設置も重要です。

 もちろん新しい技術も使えるところには導入すべきでしょう。防火に役立つ塗料(防炎塗料)は、木材の防腐用塗料と色目が同じなので、まちなみ保存の支障になることはないでしょう。消火に使える水量が不安であれば、少量の水で消火効果の高いホースの設置なども考えられます。

※水を消火性能の高い小さな水滴にして放水できるノズルがあるそうです。これらの散水ノズルは普通の水道にも取り付けが可能だそうです。

「会津屋」の袖壁

 そして最後は、過去の大火の記憶を語り継いでいくことです。関宿では江戸時代末以来、大火といえるものが記録には残っていません。まず火を出さないことが重要で、これまで関宿を火事から守ってきたのは、何よりも人々の高い防火意識があったからなのではないでしょうか。しかし、意識は必ず薄れていきます。実際に火事を経験した人の数も年月の経過とともに確実に減っていくでしょう(そうでなければないけませんが)。だからこそ、歴史から学ぶことが必要なのだと思います。 このブログも、そうした小さな積み重ねのひとつになれればと願っているのです。

 本当に小さな事しか書けないのですが、これらは保存地区に暮らす全ての人がしっかりと意識しなければ効果は表れてこない反面、積み重ねることでまちなみの防災力は確実に高まっていくと私は信じています。


 それでも、いったん火が出てしまえば、たとえ大火にはならなかったとしても、その家に伝わってきた歴史や伝統、そしてそれらを大切にしてきた居住者の想いや日々の努力の積み重ねもすべて灰燼に帰してしまいます。
 そうなる前に、防災の取り組みが少しでも、少しでも前に進むことを願ってやみません。

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