<関宿案内編>
漆喰彫刻「鯉の滝登り」
関宿の西部、新所にある町家の袖壁(そでかべ)に付けられた漆喰彫刻(しっくいちょうこく)です。
袖壁とは、火災時に隣家からの類焼を防ぐため、隣家に接した町家の両端にある建物から突き出た壁のことです。漆喰彫刻は、壁を塗る漆喰を使った、左官職人が使う道具“鏝(こて)”※1で形づくった彫刻です。
図案は、 波打つ川面から鯉が飛び跳ねた瞬間が切り取られた、いわゆる「鯉の滝登り」と呼ばれるもので、「立身出世」や「武運長久」といった家の隆盛への願いが込められているわけです。 職人の遊びなどともいわれますが、関宿に暮らした人々の家々への願いを読み取ることができます。
<この場所に行き、実際に見るためのヒント>
●関宿新所、街道の南側にある。東から西へ向かったほうが見つけやすい。
<投稿記事編>
願いを込めた漆喰彫刻 “鯉の滝登り”
“鯉の滝登り”
この漆喰彫刻は、波打つ川面から鯉が飛び跳ねた瞬間が切り取られた、“鯉の滝登り”と呼ばれるものです。
“鯉の滝登り”は、中国黄河にある急流「竜門」を登りきった鯉が龍になったという中国の故事がもとになっていて、「登竜門」としても知られています。鯉幟の元になったとも言われています。
“成功に至る関門”の意味で、「立身出世」や「武運長久」といった家の隆盛への願いが込められているわけです。
関宿の町家には、普通にまちを歩いているだけでは気づかない、このようなちょっとした彫刻や細工がよく見られます。“職人さんの遊び心”なんて言われることもありますが、単純に“遊び心”とは言い切れない、100年以上前のその家を建て、暮らした人たちの想いに触れることができてとても面白いのです。
“見立て”の妙
この漆喰彫刻は、1階庇の瓦屋根、建物の前面壁、袖壁が3方向から交わる位置にあります。この場所は、いろいろと装飾を付けたくなる場所ではあるのですが、「鯉の滝登り」に実にぴったりな場所なのです。というのも、庇の瓦屋根が急流の水の流れに“見立て”られているからです。
“見立て”とは、“あるものを、ほかのものでなぞらえること”で、日本庭園ではよくつかわれる手法です。植栽や岩を山や島などになぞらえる。枯山水では敷き詰めた砂で水の流れを表現するなどです。
つまり、ここでは庇の瓦の積み重なりを急流に“見立て”た上で、急流から湧き上がる水しぶきと、急流を登り切るために飛び跳ねた鯉を漆喰で追加したのです。
左官職人たちの優れたデザインセンスに感嘆するばかりです。
<補足説明>
※1 鏝(こて):左官職人が使う、漆喰を塗ったり、平らにならしたりするための道具。塗る広さや細工の細かさなどにあわせて、数十種類の鏝を使い分ける。