関宿の一枚看板 “庵看板(いおりかんばん)”

(3)特色のある町家と細部意匠
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<関宿案内編>

老舗の“庵看板”

 瓦屋根付きの看板で、関宿では唯一のものです。

 この看板がかかる「深川屋(ふかわや)」は関宿を代表する老舗菓子舗で、看板の両面に商われているお菓子「関の戸」の名が眩いばかりの金文字で書かれています。

 「関の戸」は江戸時代から関宿の土産品としてよく知られており、江戸時代後期の狂歌師太田南畝(蜀山人)は「ふりし名を ここにとどめて 鈴鹿山 をとにたてたる 関の戸の餅」とよんでいます。日持ちがすることもあって大名行列の大名方が、江戸で暮らす夫人などへの土産として買い求めたと伝えられています。また、「深川屋」は御室御所(京都仁和寺)御用(おむろごしょごよう)を任されており、御室御所に菓子を届けるための装束や担箱(にないばこ/菓子を入れて担いだ箱)などが店内に展示されています。

 看板が取り付けられている建物は、町家としては関宿で最も古いもののひとつで、2階正面が虫籠窓がある漆喰大壁になっており、庵看板を引き立てています。現在の店の姿は出格子戸がつけられるなど明治時代中頃のものでしょうか。

深川屋の庵看板

<この場所に行き、実際に見るためのヒント>

●関宿中町南側。関郵便局、関宿旅籠玉屋歴史資料館の向かいあたり。
●看板の金文字が遠くからでも見える。
●看板両面の文字を見比べるべし。
●店内にも歴史ある品々が展示されている。一見の価値あり。
●中をご覧になった後には、銘菓「関の戸」を関宿のお土産にどうぞ。


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<投稿記事編>

関宿の一枚看板 “庵看板”

 庵看板は建物と一体になっており、唐破風の瓦屋根がつけられている。看板にはその両面に大きく「関の戸」「関能戸」と金文字で書かれている。見る面で文字が異なっているのは、店前を通る旅人たちが歩いていく向きを間違えないようにとの工夫と伝えられている(当ブログ「屋号を記した看板代わりの“袖壁(そでかべ)”」参照)。
 唐破風屋根には特別小さく作られた瓦が葺かれ、唐破風の両端には阿吽の獅子が飾られている。これは魔除けだろうか。
 看板に書かれている文字「関の戸」は、この店であつかわれているお菓子の名前である。三重県ではもちろんのこと、首都圏の大手百貨店でも販売されており、老舗の菓子としてよく知られている。

 今から250年以上前、隣家から火が出た時、家は焼けてしまったにもかかわらず看板は外して守ったというから、老舗にとっての看板は単なる商品PRでないことは明らかだ。そして、その看板が今でも掲げられているということは、江戸時代と変わらず伝統あるお菓子が作られ、ここで商い続けられているということの証でもある。

 さて、“関の戸”というお菓子の名前は、関宿近辺にあったとされる“関所の扉”に由来しているという。お菓子にまぶされた白い和三盆糖は、関所に降り積もる雪を表現しているのだとか。この関所とは、今から1300年ほど前に関宿周辺にあった関所「鈴鹿関(すずかのせき)」のことで、その扉なので関所に設けられた城門ということになろうか。

 題名に“関扉(せきのと)”が使われている歌舞伎の演目『積恋雪関扉(つもりこいゆきのせきのと)』は、雪の積もる“逢坂の関(おうさかのせき)”を舞台とした悲恋の物語だ。名女形として知られる六代目中村歌右衛門(重要無形文化財保持者(人間国宝)/故人)は、一人で二役を演ずるこの演目を十八番としていたという。この演目が演じられるたびにお菓子を届けていたという深川屋主人との交流のエピソードは、深川屋主人が実際に書かれた「銘菓 関の戸 深川屋 陸奥大掾」(当ブログ外へのリンク)をぜひご覧いただきたい。

 本来“庵看板”とは、歌舞伎劇場の正面に掲げられた役者名を書いた板の上に屋根を取り付けたもののことである。関宿に唯一のこの“庵看板”は、まさに関宿の“一枚看板”である。

<参考にさせていただいた本など>

『鈴鹿関町史 上巻』昭和52年/関町教育委員会
『関宿 伝統的建造物群保存地区調査報告』昭和56年/三重県鈴鹿郡関町
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌 -まちを活かし、まちに生きる-』平成27年/亀山市
『東海道五十三次関宿 重伝建選定30周年記念誌(別冊) 関宿伝統的建造物の前面意匠』平成27年/亀山市

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