古い家を手放す側の事情

”関宿”まちなみ暮らし
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 古いまちなみで知り合いが増えるにつれ、実際にお住いの方から直接話を聞けるようになった。

「先祖から引き継いできた大切な家を、どこの誰ともわからない人に渡したくない。」

「後々迷惑をかけては、先祖や親類、さらには長い付き合いの隣人に申し訳ない。」

そんな声を一様に聞いた。まずは門前払いである。

 古いまちなみでは、建物は隣家と壁を接して並んでいる。向かいの家も道路一本挟んでいるだけだ。それぞれの家には先祖代々、築100年をこえる家なら3~4代が過ごしてきている。そこに積み上げられてきた人間関係も年代物なのである。

 しかし、これだけの理由なら、信頼を得ながら、慎重に説得を続ければ、何とかなりそうなのだが、どこでも聞く判で押したような答えに、実際にはもっともっと複雑な事情があるのではないかと思うようになった。

 古い家を手放す側にもいろんな事情がありそうだった。

 そもそも本来の所有者が先祖代々の家を出ていくことはめったにあることではない。そこで、私が手を付けようとしている物件(つまりは、古い家の売物)がどのように生まれてくるのか、実際に聞いた話をもとに物語を作ってみた。

まずは、親世代が家を引き継ぐ。この時はその親世代と同居である。

古いまちなみには商家が多いが、家業が続いているとは限らない。

家業が続いていない場合にはサラリーマンとなって生計を立てる。

最初に家を出るのは子の世代である。

学校や仕事で家を離れ、新しい家庭を作って離れた場所に新しい家を設ける。

必然的に古い家は親世代とその親の世帯になる。

次は、子世代の家から孫世代が独立していく。

子世代は自らの家を守ることに専念せざるを得なくなり、同時に親世代は年を重ねていく。

それでも、子世代が元気な内は、自分が生まれ育ち親世代が暮らす家と自らが暮らす家との2軒を大切にしていくのだ。

しかし、親世代が亡くなり、子世代が年老い、孫世代が独立していくと、親世代が暮らしていた古い家は次第に顧みられなくなるのである。

そうはなっても、子世代にとっては自らが生まれ育ち、親が大切にしてきた家。そうやすやすと処分できるものではない。家の中にある親の荷物も同様である。

そうして、親世代が暮らした古い家は、荷物だけを残して空家となってしまうのであるが、この段階でも売って処分とはならないのだ。

維持管理に必要な費用はそうは多額にはならない。孫世代を独立させた子世代は比較的経済的な余裕があるため、大きな負担とはならない。

処分を真剣に考えなければならない状況は、古い家の老朽化とともにやってくる。

空家となった家の傷みの進行は早い。いよいよ家の傷みが進み、大きな費用をかけて修理するか、新しく立て直すか、空き地にするか・・・。

そう考えたとき、初めて“売買”という言葉が子世代や孫世代の頭をよぎるのだ。

 これは、私の勝手な仮説なのだが、親の親、親、子、孫、ひ孫の実に5世代にわたる物語となって、なんだか絶望的な気分になってしまうのだ。

雪の日の中庭

 しかし、私が希望しているのは、こうしたおそらく日本各地の古いまちなみが抱える世代交代の課題の解決にあるのではない。単にこの流れのどこか、それもただ1つの事例に割って入りたいだけなのだ。

 そう考えたとき、なんだか“押さえるべきポイント”が見えてきた気がした。

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