“モノ”と“ココロ”の整理

”関宿”まちなみ暮らし
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 良い古い町家が流通しないのは、売り手側に売らなければならない積極的な理由が存在しないところに原因がある。だからこそ、売り手の想いにじっくりと寄り添っていかなければゴール(売買)には行きつかないのである。

 売り手の気持ちを萎えさせる理由のひとつが“モノ”の問題だ。

 古い町家には、たとえ人が住まなくなってはいたとしても、様々なモノ(動産)が残され、保管されている。最近までそこに暮らしていた住人は、そもそも物を大切にすることを美徳とし、日本人が物質的に豊かになる時代を生き抜いてきた世代なのだ。文句は言えない。

 箪笥、長持などの家具や、お膳や食器などの生活用具。

 屏風、掛軸などの書画。古文書、古写真、表彰状などの古い記録。

 季節ごとに用意された座布団や布団。それに衣類。

 家を離れた家族から持ち込まれたもの。

等々、実に様々だ。

 つまり、売買のためにはまず、家の中に保管されているモノの片付けに手を付けなければならないということになるのだ。中には骨董的な価値があって骨董屋さんが活躍する場面もあるのだろうが、骨董屋さんも必要な、つまりはお金になりそうなモノだけを持っていくので、残されたものは以前にもまして乱雑になり、片付ける意欲をさらに失わせることになる。

 やる気を振り絞って選別を始めたとしても、“ウサギ小屋”と揶揄されたこともある日本の住宅事情だ。自分が暮らす家に実家にあった荷物まで引き上げていく余裕はあるはずもなく、結局はほとんどのモノを処分せざるを得なくなるのである。

古い町家に訪れた春

 もし、「古い町家」に残されているものが、仏壇や神棚となると、話はさらに複雑だ。祀られている仏さんが残っているときには、仏壇に宿った魂を抜いてもらう「魂抜き」とか「性根抜き」とか呼ばれる法要を行う必要が生じる。そして、魂抜きができ、単なる箱となった仏壇でも、気分的には処分しにくいものである。

 ちなみに、仏壇は仏壇屋さんにお願いすれば、彫刻、金具などを含めてリメイクしてくれる。しかし、古い家にある仏壇は総じて現代の住宅には大きすぎ、リメイクしても置く場所に困ることになる。同様の理由で骨董屋さんでも引き取りを好まないことが多い。これは立派な仏壇であればある程である。

 先祖、そして家族の想い出が詰まったこれらのモノと、モノに宿った関係する人たちのココロを断ち切ることは容易いことではない。

 売り手は心の準備のないまま過去の清算を断行しなければならないのであり、買い手は“モノ”と“ココロ”の整理には時間が必要だと心得なければならない。

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