土蔵前の“サンルーム”

”関宿”町家暮らし
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 我が家には土蔵がある。町家を購入しようとしたとき、主屋の質の良し悪しは当然としても、土蔵の有無が大事な選択基準であっただけに、手に入れることができた時には大きな喜びだった。

 土蔵は主屋の中庭を挟んだ対面にあり、主屋と土蔵とは“角屋(つのや)”でつながっている。角屋は、幅3尺ほどの廊下と、廊下に面して手洗い、風呂、便所が並ぶ細長い建物だが、廊下が土蔵の出入口にある庇につながっていて、木製の扉で仕切られていた。

 我が家は元は呉服屋で、土蔵は商品蔵として使用されていたらしい。かつての主人は、この廊下を通って店との間を行き来し、商品を出し入れしていたのだろう。

 さて、改修工事では、角屋はこれまでどおり洗面、風呂、便所などとして使うことにして、設備だけを新しいものに入れ替えた。そして、土蔵は念願の書斎兼寝室として整えることとした。

 土蔵の出入口には、土戸・板戸・網付き戸の三枚の引戸が入っている。しかし、これらは土蔵の引戸だけあって間口が広く頑丈に作られておりとにかく重い。常時これらを開け閉めすることは現実的ではない。

 そうなると吹きさらしの土蔵庇では不都合だということで、土蔵の重い戸を開けたままにできるよう、庇の下を屋内に取り込んでしまおうということになった。

 土蔵は書斎兼寝室にしたため、この場所は毎日何度か通るところなのだが、南向きの庇下には中庭越しに明るい日差しが入り込み、ガラス戸で仕切ったこともあって、さながら“サンルーム”だ。単なる通路だった場所が、我が家で一番明るい場所になったのだ。

 特に冬などは、ぽかぽかと日向ぼっこしながら、光の入る中庭をぼんやり眺めることができる。そして、夜ともなると、月の光に照らされた主屋のいぶし銀の屋根瓦を見上げることもできる。

 私の特等席は土蔵の石段なのだが、冬場の石段は腰にひっつきそうになるほど冷たい。贅沢な悩みかもしれない。

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